「今からやったら秋のお式に間に合うやろか?やっぱり冬位まで待たなあかんのやろか?」

「・・・・・・」
「・・・・・・」

早っ!
ちゅうかぁ〜・・・お式って・・・

「お・・おばちゃん?」
「何、和葉ちゃん?そうやわ!和葉ちゃんの意見も聞かなあかんかったなぁ。ほんで、和葉ちゃんはいつがええん?」
「え〜と〜」
「和葉。釣られんな」
あっ・・・つい乗せられても〜たわ。
「おかん。いつからそこに居んねん?」
そうそう、それが言いたかったんよ。
「あんたらに付いて来ましたやんか」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
まったく気付かへんかったわ。
平次の様子からして、平次もまったく気付いてへんかったみたいやな。
恐るべしやわ、おばちゃん。
油断も隙もないやん。
「そやったら、何ぞ言うことあるんとちゃうんか?」
平次の少しキツメに言うた質問にも、おばちゃんは動じる事なく顎に人差し指当てて小首を傾げはった。

「あんたが分裂してること?」

「・・・・・・」
「・・・・・・」
ぶ・・分裂ておばちゃん・・・
しかもそんなにあっさり・・・
おばちゃんの言動にあたしと平次の思考は、さっきから一時停止しっぱなしや。
「別にかまいまへんがな。誰の邪魔になる訳でもあらへんでっしゃろ?あ!和葉ちゃんには苦労掛けるかもしれまへんけどな、どっちも平次には変わり無いんやし大目に見たってな」
そんなんで、ええんかな?
あたしの思考がまた止まりかけた時に、平次の余り聞いた事の無い少し困惑した声が聞こえた。
「いつから気ぃ付いてたんや?」

「入院してる時からやけど?」

おばちゃんのその答えに、今度こそあたしらの思考は完璧に止まってしもた。

「初めはなぁ、流石に驚いてもうたわ。あんた寝たかと思うたら、『和葉は?』『和葉来とらんのか?』言うて行き成り和葉ちゃんのことばっかりや。うちは記憶が戻った思うて慌てて先生呼びに行って、戻ってみたら寝てますやんか。仕方無いからもっぺん起こして、訪ねてみたら何も覚えて無い言うし。そん時はうちの勘違いいうことで済ませましたけどな、そんなんが何遍も続いてみなはれ、おかしい思うんが普通でっしゃろ?」

おばちゃんの言うてることは、あたしらには初耳やった。
特にあたしの平次には衝撃やったみたいで、あたしの肩に置いてる手に力が入っていくんが分かる。

「極めつけは退院の前日でしたやろか?携帯に付けてる、ほら、和葉ちゃんが平次に作ってくれた御守り、あれの中から何か取り出してる思うてこっそり見とったら、それを携帯に入ってるメモリーカードと入換えて、画面で何やら真剣に見とったわ。そん時は声掛けたらあかん雰囲気やってな、うちも気付かん振りしとったんやけどな、やっぱり気になるやないの?そんで退院準備しとる最中に、さり気のう『その御守りの中に入ってるんは何やの?』って尋ねたら、まったく知らん言うやないの。しかも御守りの中にほんまにメモリカードが入ってるの見て『何やこれ?』言うて、携帯で中身確認したら和葉ちゃんの写真がぎょうさん入っとって驚いてたやないの?あれは、あんたん方でっしゃろ?」

え?
あたしの写真?

さっきから驚きどうしやけど、これには更に驚いてもうたわ。
やから、あたしは『ほんまなん?』って思いを込めて、平次を見上げてしもた。
そしたら、
「ほんまや」
ておばちゃんの問い掛けには答えんと、あたしにそっと小声で悔しそうにそう答えてくれた。

「あんたが和葉ちゃんの記憶が無い方の平次で、さっき和葉ちゃんに張り飛ばされとったんが和葉ちゃんの記憶が有る方の平次なんやろ?」

おばちゃんは平次の返事なん気にも留めずに更に面白そうに平次に問いかけてはるけど、普通はもっと深刻な問題ちゃうんかな?
それよりも、あたしの写真を平次がわざわざメモリーカードに保存してまで、持っとったなん信じられへんわ。
あの平次がやで?
あたしの平次やのうて、あのホンモン平次がやで?
何かの間違いなんやないやろか?

「どうやって入れ替わってるん?頭打ったらチェンジするん?それとも片一方が寝たら、もう片一方が起きるん?」

あたしが1人考え込んでる間も、おばちゃんの平次への質問は続いとった。
ふと気になってもっぺん平次を見上げたら、何でか今度は呆れた様な顔してるやん。
「おかん。えらい楽しそうやな。自分の息子が二重人格になったら、普通はもっと慌てるもんちゃうんか?」
「なんでうちが慌てなあきまへんの?」
流石おばちゃん、きっぱり否定してはるわ。
「二重になろうが多重になろうが構いまへんがな。うちは和葉ちゃんをこの家の娘にしてくれるんやったら、あんたがぎょうさん分裂したかて一向
に構いまへんで。それにな、ビリー・ミリガンには一度会うてみたかったんよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
前半部分は嬉しいんやけど、後半部分でやっぱあたしと平次の思考は一時停止してしもた。

「もう、そんなことはどうでもええやないの」
「・・・・・・」
「どうでもええんかい?」
おばちゃんのほんまにどうでもええみたいな言い方に、平次も心底呆れたみたいな声を出してる。
「さっきから構わへんて言うてるやないの。そやけど、今のとここのことに気ぃ付いてるのはうちと和葉ちゃんだけみたいやからええけど、他の人に気付かれん様にはしなはれ。そやないと、せっかくの『和葉ちゃんうちの娘に計画』が流れてしもたら困りますからな」
おばちゃん・・・何ちゅうネーミングの計画やのそれ?
「心配なんはそこかい?」
「そうです。他に何がありますの?」
これって、あたしは喜んだ方がええんかな?
「まぁええ。俺もおかんと同じやしな」
「?」
平次が急にあたしを後ろから抱き締めて、そう言うた。
おばちゃんが目の前に居るのに、
「和葉は俺のや。誰にもやらん」
とあたしの頭にチュッてする。

「あんたやったら話しが早いわ!ほんで本題に戻りますけどな、お式はいつがええやろか?」

笑顔でポンッて手を鳴らしておばちゃんが、結局話題をそこに戻してしもた。
「どうせやったら、早い方がええ」

え?

「そやろ。ほな、やっぱり秋やろか?」
「式はそんくらいでも構わんけどな、先に入籍してまういう手もあるで」

は?

「そうやったわ!その手があったわ!」
おばちゃんが今度はピョンて飛び跳ねて、手も叩いてはる。
「あ・・あの〜」
「あっ、和葉ちゃんはな〜んも心配せんでもええよ。うちが上手いこと遠山はんには言うたるさかい」

あ・・え〜と・・・
そういう問題とちゃうんやけど・・・

「婚姻届の用紙は明日朝一でうちが貰いに行ってくるわ」
「おかん。こそっと行けや。それかいっその事、変装でもしてから行ってくれ」
「そうですなぁ、あんまし目立ってもあれですからな。ほな、大滝はんにでも貰うて来てもらいましょうか」
「そうやな。その方がええかもしれん」
「ほな早速電話してお願いしましょ」
言うておばちゃんは小躍りしながら、電話んことに行ってしもた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

初デート + 婚約 + 結婚 + その他ぎょうさん

たった1日でこれって・・・
くらぁ〜って眩暈がしてもうた。
あたしの小っこい脳ミソは、許容範囲を遥かに上回る出来事の連続にオーバーヒートを起こしてしもてる。


もう、このまま寝てもええかな?





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