次の日、あたしが目ぇ覚ました時には、婚姻届はすでに服部家に届けられてた。


「あっ、和葉ちゃん目ぇ覚めたん?すぐに朝食の用意するさかい、平次起こして来てくれへんやろか?」
あたしが寝とった客間から廊下に出ると、そこに居ったおばちゃんにそう言われた。
「おはようございます。朝食やったらあたしも手伝います」
「もう、そんなん気にせんでええから。早う、平次起こしたってな」
「ほな、そうさしてもらいます」
おばちゃんにニコニコで言われたら、どうも逆らったらあかんような気がするんは何でやろ?
そう思うて、取り合えずは平次を起こすことにした。

そう言えば、あたしはいつの間に寝たんかな?

階段を登って平次の部屋の前に立つまで、色々思い出してはみたもののどうもあの洗面台のところから記憶が無い。
もっぺん始めからって思うたけど、あまりに衝撃的なコトが多かった気がして思い出すんを止めた。
きっとこの選択は正しいはずや。
まずは打倒平次やな。
ほな、行きます!
「平次〜〜!朝やで〜〜!」
と豪快に扉を開けたとこで、あることに気が付いた。

そや!ローテーションからいって、これはホンモンやったわ!!

後悔先に立たず、開けてしもたもんは仕方が無い。
そう思うて気を取り直したんやけど、室内は静まり返ったままやった。
「あ・・あれ?」
よくよく見ると平次はまだベットに入って寝てるやん。
1人合気の構えしたあたしがバカみたいやんか。
「あほらし・・・」
はぁ〜って肩の力抜いて、そっとベットに近寄ってみる。
けど、近寄り過ぎたらあかん。
有る程度の距離を保って、
「へ〜じ〜!朝やで〜〜!」
ともっぺん声掛けてみる。
「・・・・・・」
”し〜ん”てとこなんやろけど、蝉が大合唱しとるから、”み〜ん!”や。
「へ・い・じ・お・き・て」
両手を口に当てて、小声で言うてみた。
「服部く〜〜ん!朝よ〜〜ん!」
言うててサブイボ出そうや。
「へ〜ちゃ〜ん!おっきの時間やで〜〜!」
これで起きたら有る意味恐いわ。

それにして起きへんやん。
もちょっとだけなら近付いてもええかな?
一歩。
微妙やな?
ほな、もう一歩。
うん、こんなもんやろ。
「平次〜ええ加減に起きへんと、おばちゃんに怒られんで〜」
これならどうや!
「・・・・・・」
もうこれは絶対に起きてる。
あの平次がこんだけ側でやいやい言われてて、起きへん訳無いやんか。
「ほんまは起きてんのやろ?」
「・・・・・・」
あ〜も〜段々腹が立ってきたわ。
よこらっしょっと、
「もう起きへんのやったら襲うで!ええの!」
寝ている平次の体を跨いで、上から腕組みして怒鳴りつけたった。
そんでやっと布団の中でもそもそ動いた思うたら、
「ほれ」
言うて目ぇ瞑ったまんま両手広げたやんか。

うわっ!
何やごっつうムカツクんですけど・・・

これは絶対、あたしが何も出来へんて思うてる証拠や。
いつもいつもあたしかてやられっぱなしちゃうんやから。
「ほな、遠慮なく」
平次の顔に近付いて行ってキスとみせかけて、左の耳にパクリと齧り付いたった。
そのまま耳たぶ甘噛みして、耳の穴に向けてふぅ〜て一息。
「っ・・・」
すると平次の体がブルッて震えて、飛び起きてくれた。
「おはよ〜さん」
「・・・・・・」
目ぇ見開いてあたしを見てるけど、その顔、微妙に赤いで。
福神漬一歩手前やな。

この反応はホンモンや。
あたしの平次やったら、即効掴まえられてお返しされてるはずやから。

「ほな、あたしおばちゃんのお手伝いしてるから。平次も早う下りてきぃや」
そう言うてベットの上から下り様としたら、ガシッて左腕を掴まれた。
「キス・・・してええか?」
「え?」
「あかん・・・のか?」
一瞬聞き間違いかと思うたけど、テレたような訴えかけるような真剣な目ぇはそうやないみたいや。
ホンモンに間違いないけど、この逆豹変した態度はどうしたんやろ?
「どしたん?熱でもあるん?」
「・・・・・・」
「いくら夏やから言うても、お腹出して寝たら風邪ひくで?」
「・・・・・・」
ほんまに変やわ?
いつもやったら速攻言い返して来るのに、まったく反応無いなんありえへん。
「・・・・・・キス・・・したいん?」
やから思わずあたしもつられてしもた。
そしたら、
「したい・・・お前とキスしたい」
とこれまた耳を疑うような信じられへん答えが帰って来てしもた。

か・・・可愛ええかも・・・

顔赤うして真面目な顔でそう言う平次。
今までのあたしの記憶を総動員しても、こんな平次は頭の片隅にさえ存在せぇへん。
一瞬どうしたらええんか分からんかったけど、とにかく目ぇを閉じることにした。
するとあたしの腕を掴んでた平次の手が、こんどはあたしの頬をそっと撫でる。
あたしの平次とはこんなんいつものことやから平気なんやけど、これはホンモンや。
そう思うとなんでかドキドキしてきてもうた。
「和葉・・・」
名前を囁かれて、唇にそっと触れるだけのキス。
今までホンモン平次にも散々キスされまくってるのに、何か初めてするみたいな感じやわ。
「和葉・・・」
もう一度名前を囁かれたからあたしも平次の名前を呼ぼうと開いた口は、今度こそ本当に塞がれてしまった。

あたしは平次が好き。
あたしの平次もホンモンの平次も好き。

中身が2人でも、外からみたら平次は1人。

問題ない。

・・・・・・はずやったのに・・・あたしには大問題やったわ。


これって誰に相談したらええの?





triangle 16 triangle18
novel top triangle top material by Harmony