結局平次はスパイが誰なのか、教えてはくれへんかった。
ちゅうかぁ〜、スパイが居るいうんは確定?
信じられへんけど、誰やろ?

ああ〜気になる〜〜〜!

今後は大学行ってる間まで、神経尖らせて行動せなあかんやん。

「和葉〜まだなんかぁ〜?」

あっ。
ぼ〜と考え事しとったら、手がお留守になってしもとったわ。
そうや、これからホンモンと出かけるんやった。
「ごめ〜ん。もうちょい待ってぇ〜」
あたしはバイクに乗り易い格好をチョイスして、ヘルメット被るからポニーテールも無し、そんで軽くお化粧をした。
姿見の前で全身を最終チェック。
「よしよし。可愛ええ」
自分で言うんはお約束。
女の子は自分で自分に暗示を掛けて綺麗になるんや。
「まぁまぁやな」
「うっ・・・」
折角の自己暗示にちゃちゃ入れよってからに・・・ってか、いつの間に?
横目でジロッと睨んで見ると、
「細かいことは気にすな。ほな、行くで」
とすでにドアの外。
「・・・・・・・・・・・・」

う〜ん?どうも、いつものホンモンと違う・・・

何かほんまにあたしの平次とホンモンが混ざったような・・・

「さっさと来いんかいっ!置いてくで!」
顎に手ぇ当ててまたまたぼ〜ってしとったら、今度はホンモンらしいイライラした声が飛んで来た。
「あっ!待ってぇ〜な!」
ショルダーバックを掴んで、急いで部屋を飛び出す。
何所に行くんかまだ知らんけど、とにかく置いて行かれては後で困ったコトになるんは目に見えてるから。

平次の背中にしがみ付いた状態でも、頭ん中はさっきの平次の言葉がグルグルや。
確かに、あの状況で平次があたしより早くあたしのアパートに着いてたんはおかしい。
大学からそんなに遠ないいうても、神戸の町は結構複雑な作りやし、住所聞いただけでそうすんなりと辿り着ける訳がない。
ってなるとや。
やっぱ平次は前からあたしのアパート知っとったってことやんなぁ。
ってことは・・・

まてまてまてまて。

待つんやあたし。
ホンモンの口車に乗せられたらあかんで。
あたしの平次も言うてたやんか、”その為やったら、何やってする気やで”って。

うん、うん。言うてた。
やったら、これもその一つかも知れへんな。
衝撃的な平次の真実聞かされて動揺してしもたけど、ホンモンのペースに巻き込まれたらあかんね。
”あたしの平次”は実在するんやから。

「着いたで」
バイクが止まったことにも気付かずに、平次に掴まったままやったあたし。
「抱き付いとってもええけど、目立つで」
言われて周りを見回すと、なんかえらい人がぎょうさん居る場所やった。
しかも何人かはこっちを見とるし。
慌てて平次から腕離そう思うても、久しぶりに1時間以上この体勢やったからそう簡単には解けへん。
やから先にヘルメット外した平次がゆっくりとあたしの腕を解いてくれて、何とかバイクから降りあたしもヘルメット外して一息吐いた。
「はぁ〜〜。で・・・ここ何所なん?」
「何所やろなぁ〜」
一人で笑うて教えてくれへんから改めて周りをゆっくりと見回すと、
「あっ・・・」
目の前のでっかい建物にデカデカと”京都駅”って書いてあったわ。
ってことは・・・京都!!
何で?

あたしには鬼門やのに・・・

「き・・京都で何するん?」
取り合えずは聞いてみる。
「そんなん決ってるやろが。新居探しや」
「・・・・・・」
新居?
新居って、新しく居るって書くあの新居?
結婚して新しく住む所ちゅう、あの新居?
「はいぃ〜〜〜?」
京都で?誰が?
「あの〜そこって誰が住むん?」
素朴な疑問や。
「俺らに決ってるやろが?ボケとらんで、早来い。ほんまに置いてくで、和葉」
平次はそういうとあたしの手を取って、さっさと歩き始めてしもた。
「ちょ・・ちょっと待って平次。それってどういうこと?」
「どうもこうも無いやろ。俺ら夫婦なんやで。一緒に住むんは当然やろが」
まぁ、夫婦が一緒に暮らすんは当然やけど。
問題はそこや無い。
ちゅうかぁ〜、そもそも何で京都?
「一緒に住むってあたしらまだ学生やん。それに、そんなん急に言われても・・・」
「急でも何でも一緒に住んは決定や」

け・・決定?

それって・・・もしかせんでも・・・

「お・・おばちゃんと決めたん?」
「おお。おかんがどうせならお前の好きなとこにせえ言うからな」
「それってどういうこと?」
「マンションでもアパートでも、なんやったら一軒家でもええらしいで」
「・・・・・・」
「賃貸しのマンションで気に入ったんがなかったら、2000までなら買うてもええとも言うとったで」
「・・・・・・2000円?」
「アホゥ。どこの世界に2000円でマンションが買えるんや。2000万や、2000万」
「・・・・・・・・・・・・」

わ・・悪いけど・・・着いて行けへん・・・

それこそどこの世界に学生結婚したガキに、ウン千万もするマンション買い与える親が居るんよ。
おばちゃんも何考えてはるんやろか?

セレブか?
これが、世間一般でいうセレブっちゅうやつか?

世界が違い過ぎる。
うちはごくごく一般的な家庭やから、学生が住むんはせいぜい家賃が7万位が上限や。
お父ちゃんも学生が贅沢したらあかん、ていうタイプの人間やし。
あれ?
でも、おばちゃんもおじちゃんもそういうタイプの人間やったはずなんやけど?
それに今平次が住んでる部屋って、どう贔屓目に見ても普通のアパートやったし。

それが何で行き成り2000万?

あたしが一人で毎度の毎度の事ながらぐるぐる考え込んどったら、いつの間にか平次の目的地に到着してしもたみたいやった。
「着いたで」
言われて目の前の建物見ると不動産屋の看板が。
「ここな大学のツレん家がやっとるとこなんや」
「ふ〜ん」
随分立派な不動産屋に見えるんやけど。
あたしなんかその門構え見ただけで尻込みしてまうんやけど、平次は平気な顔してさっさと入ろうとする。
「ちょ・・ちょっと待って。まさか、ここで探すん?」
「お前なぁ、さっきから何やねん?」
動揺しているあたしなんか何のその、不機嫌極まりない顔で平次が振り返った。
「いくら友達の家がやってる言うてもやで、ここってあたしらみたいな学生が来るとこと違うんちゃうの?」
「そんなショウモナイこと気にせんでええ。それにや京都駅近辺で探すんやったら、ここが一番ぎょうさん物件持ってるんや」
「やったら、京都駅近辺やのうてもええやん」
「俺は別にええけどな。お前、どうやって神戸まで通うつもりや?」
「・・・・・・」
そうやった。
あたし、大学神戸やんか。
ってか、それをいうならそもそも京都に住むいうこと自体無理なんちゃうの?
あたしが平次をジト目で睨み上げたのに、
「京都駅近辺やったら、すぐに新幹線に乗れて便利やで」
とサラッと返しよった。
はぁ〜、今度は新幹線ですか。そうですか。
もう、ここまで来たら驚くことは無いけど、呆れてしもたわ。

ほんまに。
あたしの為に、どんだけ散財する気やねん?





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