〜Lively Night〜 03 |
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寝屋川の実家に着くと、オカンが玄関まで迎えに出て来た。 「お帰り、和葉ちゃん。疲れたやろ?」 「息子は無視かい!」 「アンタには先月会うたやろ?」 いつもの事やけど、オカンはオレの存在をさっくり無視して、目ぇ見えへん和葉の手ぇ引きながらさっさと居間へと向かう。 やれお茶やお菓子やと何かと世話を焼きたがるオカンと楽しげに話しとる和葉が、傍目には失明する前と変わらないように見える事に満足して、オレは着替えの入ったバッグをいつも使う客間に運んだ。 二階にあるオレの部屋は殆どそのままの状態で残っとるから実家に帰って来た息子としては嫁と一緒にその部屋を使うのが普通なんやろが、目ぇ見えへん和葉が万が一にも階段で怪我したりせえへんように今は日当たりのええ客間を使うようにとオカンからくどいくらいに言われとるからや。 この客間が親たちの寝室に近いんが難点やったが、コッチで暮しとった時のオレやったら間違いなく自分から使わせてくれて言うてたやろし和葉も素直に有難がってたハズやから、少々の不満は呑み込んでオカンの厚意から出とる指示に従っとる。 「オカン!そろそろ風呂使うで!」 「ああ、そやね。和葉ちゃんが湯冷めしたらアカンし……」 オカンには、今夜のパーティーのために和葉の化粧を頼んである。 適当な時間を見計らって声を掛けると、喋り倒してそれなりに満足したんかオカンはパタパタとタオルやら何やら用意しはじめた。 「和葉ちゃん、ちゃんと見てあげるんやで?」 篭を作る前、退院した和葉をこの家で預かっとった時は風呂もオカンが手を貸しとったが、結婚して『夫婦』て関係を手に入れた今はオレが一緒に入る事に反対せえへん。 それでも毎回必ず一言釘を刺すのは、和葉が心配やからやろ。 「わかっとるわ。毎日やっとる事やし心配いらん」 まだあれこれと世話を焼きたがるオカンを追い払って、和葉の服を脱がせてやる。 たっぷりと張った湯で温められた風呂は慣れた篭とは違うから足元が危ないやろといつものように抱き上げてやると、和葉はぎゅっと首に抱きついてぴったりとカラダをくっつけてきた。 「平次ぃ……」 「さっきイカせたったろ?」 「もうちょっとだけ。オバチャンに聞こえへんように声出さへんから、ちょっとだけちょうだい。な、ええやろ?」 「ええ子で居られへんのか?褒美はいらんのやな?」 「せやない!アタシええ子にしとる!せやけど……」 和葉のために誂えた人工物とは思えへんほど自然な光を湛える義眼が、熱く切なげに揺れる。 『ご褒美』があるから我慢しとるが、和葉は痛みと快楽に餓えとる。 オアズケを覚えさせるんも大事やったが、昨夜から殆ど構ってやっとらんし明日篭に帰るまで我慢させとかなならんから、少しだけ我侭を聞いたる事にした。 「まあ、ええ子でオカンの相手しとったしな」 「うん。アタシ、ええ子にしとるよ」 「篭に戻るまで、ちゃんとええ子にしとれるな?」 「うん。ええ子にしとったら、ご褒美くれるんよね?」 「ああ、ちゃんとくれたる。せやから、篭の外では普通にしとれよ?」 「うん。オバチャンの前でも、パーティーん時も、ちゃんと皆が知っとるアタシで居る」 「約束やで?」 「うん」 ええ子でオカンの話し相手が出来たからオマケやと耳元で囁いて、柔らかな耳朶を跡がつかへん程度に噛んでやる。 「あっ……」 「オレのモンは今はくれてやれんけど、軽くイカせたる。せやけど、声出すんやないで?鳴き声上げたらそこまでや」 「う……んんっ……」 少しだけカラダを離させて、膝の上に座らせとるから丁度オレの目の前にある乳首に噛み付いてやると、和葉は慌てたように自分の指に歯を立てて声を殺した。 「コラ。カラダに傷つけんなていつも言うてるやろ」 「あっ…せやけどっ……」 「オレの肩に噛み付いとれ。どうせシャツで隠れるんやし、噛み千切ったかて構わん」 「んんっ……!」 素直にオレの肩に歯を立てる和葉の乳首を今度はぎゅっと潰すように摘んでやってから、蜜で潤んだ下の口に指を突っ込んでやる。 ビクビクとカラダを震わせながらも懸命に声を殺す和葉の中を探りながら一番敏感な蕾を弄ってやっとると、背中に思いっきり爪を立てられた。 「そろそろイケそうか?」 「んんっ!んんんっ!」 「オマケなんやから、我侭言わんと素直にイっとき」 「んんんっ!!」 背中を支えてやっとる腕をずらして脇腹を少しだけ抓ってやりながら一際敏感になっとる蕾を押し潰すように刺激してやると、和葉はオレの肩を噛み千切る勢いで歯を立てた後、くたりと力を抜いた。 「オマケまでくれたったんや。篭に帰るまで、ちゃんとええ子にしとれよ?」 「……ん」 荒い息をつきながら、和葉が頷く。 息がかかる度にピリピリと痛むんは、和葉の歯がオレの皮膚を裂いたからやろ。 「あ……堪忍な、平次。肩、血ぃ出てしもた……」 口の中に広がった匂いで気付いたんか、和葉が熱い舌でゆっくりとオレの肩の傷をなぞる。 ぞくりと背中に走った熱を散らすように大きく息をついて、膝に座らせとった和葉を椅子へと移動させた。 「かまへん。それより、あんまり長風呂やとオカンに怪しまれるで?」 「うん……」 十分とはいかへんやろがそれなりに満足したんか、和葉は素直に頷く。 いつものように髪とカラダを手入れしてやって風呂から上がると、手薬煉引いて待っとったオカンがオレの手から和葉を攫って居間に連れ込んだ。 「着替えはコレや」 肩にタオル掛けたまま、和葉のドレス一式を入れたバッグを居間にいるオカンに渡して客間に引っ込む。 脱衣所の鏡で確認した肩の傷はまだ血を滲ませとったが、ガーゼが必要な程やないからシャツの下にタンクトップでも着とけばええやろ。 タオルで押さえて簡単に止血して汗が引くのを待ってからスーツに着替え、目ぇ見えへん和葉のために目印代わりにと作らせた純銀の小さな鈴が3つずつついた細い2本のチェーンで飾られたラベルピンを襟に刺す。 小さな鈴は音も小さいが、耳のええ和葉はこれでも十分にオレの存在を見つけるやろ。 「平次!和葉ちゃんの仕度終わったで!」 オカンの声に、2人分のコートを持って居間に入る。 薄く化粧された和葉が着とるのは、先日誂えてやった黒の地にオレンジの花模様の入った膝上丈のワンピース。 結い上げたポニーテールには、オレンジ色のふわふわしたリボンが揺れとった。 「綺麗やで、和葉」 「あら、言うようになったんやね、平次」 「言わな伝わらんからな」 オカンが含み笑いしながらからかってくるのをさらりと流して、四角くカットされた襟に合わせて黒い共布で作らせたチョーカーを和葉の首に巻いてやる。 後ろでリボンのように結んだチョーカーにつけられた純金で作らせた鈴が、リンと涼やかな音をさせた。 和葉の鈴は目印言うよりは猫につけてやる首輪の代わりやったが、このワンピースにはよう似合う。 パーティー会場はここから車で15分くらいの所にあるイタリアンレストランで、今夜は店を借り切ってのパーティーやから少しめかして来いと連絡があったから、これくらいで丁度ええやろ。 「オカン、タクシー呼んでくれ」 「はいはい」 間違っても飲酒運転なんせえへんように泊まらせてくれて言うておいたからか、オカンは馴染みのタクシーを呼ぶために居間を出て行った。 「店についたらオレと離れる事もあるやろけど、いつでもちゃんと見とるから心配すんなや?」 「うん」 「ええ子にしとり」 イヤリングをつけさせとらん耳朶を軽く噛んでやる。 素直に頷く和葉にコートを着せてやって、玄関へと向かった。 |
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