〜Lively Night〜
                                                  05



パーティー会場のイタリアンレストランは、抑えた内装と間接照明が暖かな印象を与える落ち着いた雰囲気の店やった。
入り口を入ってすぐの所にあるリボンとリースで飾られたツリーも、華やかやけどどこかクラシックでこの店によう似合うとる。

「コートと荷物、良かったらここ置いてや」
「おう」

松田の勧めに従って、コートを受付横に並べられた椅子に置く。
和葉のコートはいつもならオレが脱がせてやる所やったが、あの頃のオレらやったら間違ってもそんな行動は取らんから、和葉が自分で脱いだコートを受け取ってオレのコートの上に乗せるだけにした。
これくらいの事なら、高校の頃からやっとったからな。

「奥行くで」
「うん……」

受付やっとる河村に2人分の会費払って、かつてのクラスメイトたちの方へと和葉を促す。
誘導するために取った手から、和葉が戸惑っとるのが伝わって来た。
それは多分、かつてのクラスメイトたちが『服部平次の妻』やなくて『遠山和葉』として接して来るからやろう。
同級生やったんやから当然と言えば当然の事やったが、和葉にとってはあの篭を作って以来殆ど味わう事のなかった感覚やから、どうしたらええのか迷っとるんやと思う。

「久しぶりに『遠山和葉』に戻って楽しんどり。オレも『改方の服部』として楽しむわ」
「……え?」
「今、この場所でだけや。あの『篭』を無くしたないやろ?」
「うん」

躓きかけた和葉を支える風を装って、耳元で静かに言い聞かせる。
篭を、あの閉ざされた楽園を護るためにも、入り口で木下や田中に気付かれたような醜態はもう曝せない。
この中に、異質なモンを嗅ぎつける能力に長けたヤツが居らんとも限らんしな。
和葉もそれを充分にわかっとるから、素直に頷いた。

「ったく、足元気ぃつけろて言うたやろ」
「やって、見えへんのやもん!平次の誘導が悪いんや!」
「何やと?このまま放ったろか?」
「虐待反対!」
「相変わらずやね」
「……たかちゃん?」

あの頃のオレらならしただろう他愛もない口論に割り込んで来たんは、今回の首謀者の1人で年明けに結婚予定の伊藤孝子、和葉が『たかちゃん』て呼ぶ中学からの親友やった。

「ホンマ久しぶりやね、和葉。会えて嬉しいわ」
「アタシも。結婚式には行けへんから、ここでお祝い言わせてや。おめでとう、たかちゃん」
「オレからも言うとくわ。おめでとう、伊藤」
「ありがとう、和葉。服部君も。強引にクリスマス会に誘っちゃってゴメンな」
「ううん。アタシもたかちゃんに会いたかったし、誘ってくれて嬉しい」

幸せいっぱいてオーラ振り撒いとる『たかちゃん』と、嬉しそうに笑う和葉。
次第に集まってくる、かつてのクラスメイトたち。
本来なら楽しいハズの時間。

あの篭を維持するために普段から『外』で『服部平次』を演じ慣れとるオレでも、昔のオレらを知っとる連中を前にしとる今は気ぃ抜く事は出来へん。
ましてや、殆ど外出させへん和葉にとっては、この数時間は苦痛以外の何物でもないやろ。
それだけに褒美への期待は高まるやろけどな。

胸ん中でひっそり笑って、改めて『たかちゃん』に視線を落とした。

「旦那んなるヤツは来とらんのか?」
「今日はクラス会やで?迎えには来てくれるから、そん時に会わせたる」
「何や、勿体つけるんやなぁ」
「勿体つけるゆうか、ぶっちゃけ仕事で残業なんよ」
「社会人は大変やな」
「まあね。でも和葉には会うて欲しいから、終わりまでには絶対来てて言うてあるんよ」

残業抱えた社会人がそう都合よく来られるんか疑問やったが、今夜を逃せばまた何かと理由見つけて引っ張り出されるやろうから、そいつが登場してくれる事を祈っておく事にした。

「全員集まったで!まずは乾杯しようや!」
「グラス取ってや!」

入り口と受付にいた4人が、ビールの注がれたグラスを配って歩く。
本来ならテーブルと椅子が並べられとるやろう店内は、今夜は立食パーティー用に厨房付近に料理のテーブルが置かれ、所々に配置されたテーブルには恐らく身重の『たかちゃん』と和葉のためやろう椅子が幾つか用意されとった。

「たかちゃんはノンアルコールな」
「残念やけどしゃあないか」
「妊婦さんは大人ししとり。和葉はビール。カクテルとかも作ってくれるけど、乾杯はやっぱコレやん?」
「アタシ、飲んだ事ないんやけど……」
「一口飲んでみて、不味かったら服部くんに飲ませればええやん」
「オレかい!」
「どうせザルなんやろ?服部くんが飲まへんなら、タクに頼んでもええで?」
「……オレが片づけたるわ」
「相変わらずやねぇ」

からかうような声音に望まれとるやろう反応をしてやると、グラスを配って歩いとる木下がケラケラと笑った。

「グラス回ったかぁ?」

グラス片手に入り口のツリーの前に立った河村が、ぐるっと店内を見回す。

「ほな、メリークリスマス&伊藤孝子ダブルでおめでとう!乾杯!」
「乾杯!」

あちこちからグラスを合わせる音が響いて、あの頃みたいに楽しく賑やかな、せやけどオレと和葉にとってはどこか息苦しいパーティーが始まった。



平次にとって全てにおいて優先するのは和葉で、そのためにも楽園であるあの篭の維持に心を砕いてます。
ただ、そのために『あの頃の自分』を演じるのは、結構辛いようです。
 
「 常春なクリスマス……桜のツリーにケーキは桜餅、ほんで茶席でも作るか? 」

by 月姫
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