鏡幻月華  〜 十三の夜 〜前編
和葉を着替えさせて戻ったリビングで、キッチンに並んどる工藤と姉ちゃんを眺める。
じゃれるような明るく楽し気な声や暖かな空気は、今のオレたちには無縁のもの。

「アレが欲しいんやったら、あの頃のオレで居ったるで?」

視線は工藤たちから離さんまま和葉にだけ聞こえるように低く囁くと、オレのシャツを握っとる手に力が入った。

「ううん、今のままがええの。ただ、忘れたないだけ」

姉ちゃんに懐いとる和葉。
自分からオレの傍を離れて、姉ちゃんの隣で寛いどった。

何もかんも全てオレのモンやて誓いながら心を、たとえ片隅やろうと明け渡すなん絶対に許さへん。
忘れとるんなら、思い出させたる。
そう思て寝室に連れ込んで問い詰めると、和葉は戸惑ったように口ごもったあと珍しい執着を見せた。

『なぁ平次、アタシに蘭ちゃんチョウダイ』

姉ちゃんを欲しがる和葉。
和葉の言い分を信じるなら、あの姉ちゃんは『外』との窓口でバランサーみたいなモンなんやろう。
和葉の言葉に嘘は感じられんし、留守番させとる猫が退屈せえへんように与えたる玩具や思えばハラも立たん。
いや、むしろ欲しがるなら何でも与えたりたいし、ええ子にしとるならお気に入りの玩具取り上げるようなマネはせえへん。

正直、引っ掛かる部分は残っとるが、それで納得する事にした。

「お待たせ!ご飯出来たよ!」

姉ちゃんの声に、リビングのソファからダイニングテーブルへと移動する。
テーブルの上には彩りも綺麗な料理が並んどった。

「お皿とかお茶碗とか勝手に使わせてもらっちゃったんだけど、よかったのかな?」
「勿論や。ドコ開けて何使うてくれても構わんで。アブないモン隠しとくのはベッドの下ゆうのが相場やろ?」
「そうじゃなくて!もう!」
「オメーのコレクションの心配なんかしてねえよ」

姉ちゃんが赤い顔して可愛らしく頬を膨らませ、工藤は容赦なくオレの後頭部を叩く。
そう言えば、あの頃の和葉もからかうと時々こんな表情をしたんを思い出した。

ああ、確かに、全て忘れてまうのは勿体無い『記憶』やな。
何となく、和葉の言いたかった事がわかった気がした。

「それにしても旨そうやな。さすが姉ちゃんや」
「当たり前だ。蘭の手料理だからな、有り難く食えよ」
「オマエは何作ったんや、工藤?」
「……サラダだ」
「キュウリ繋がっとらんやろな」
「キュウリ切ったのは蘭だから心配いらねえよ。でもな、玉ねぎスライスしたのは俺だぜ?」
「相変わらず包丁は苦手なんやな。今時のオトコは料理の一つも出来なアカンで?」
「うるせえ」

工藤をからかいながら和葉を椅子に座らせて、いつものように隣に腰かける。

「いい匂い」
「関東風の味付けだから、口に合わなかったら残してね」
「蘭ちゃんのお料理は何でも美味しいやん」
「これも美味しいといいんだけど」

姉ちゃんが小皿に料理を取り分けて和葉の前に置く。
そのままあれやこれやと世話を焼こうとするのを止めて、工藤の隣に座らせた。

「和葉の面倒はオレが見るさかい、姉ちゃんは工藤見たり」
「そうそう。さっきまでずっとアタシが蘭ちゃん独り占めしてしもたし、ちゃんと未来の旦那様構ったげてや」
「新一なんていいのよ、和葉ちゃん」
「テレんでもええやん」
「何やったら、オレら向こうで食おうか?」
「もう、服部君まで……」

婚約の事をこれでもかと話題にしてからかうオレと和葉に、ひたすら照れて虚しい抵抗をする姉ちゃんと反撃の機会を窺う工藤。
あの頃と同じ賑やかな食卓。
バカ笑いしながらそっと窺った工藤と姉ちゃんの様子には今までと変わった所はないし、裏もなさそうや。
あれだけ姉ちゃんに懐いとった和葉も、さっきの言い分に嘘はないと確信できる。

「姉ちゃんの料理は絶品やな」
「毎日こんな美味しいゴハン食べられる工藤君が羨ましいわ」
「ちょお待て、ほんなら何か?オレの料理は不味いゆうんか?」
「オメーの作るモンが蘭の手料理に敵うワケねえだろうが」
「未だにキュウリも切れん工藤に言われたないわ」
「でも、服部君のお料理が一番でしょ、和葉ちゃん?だって、愛情たっぷりだもんね」
「蘭ちゃん!」

晩メシを終えて熱い茶を飲みながらの他愛のない会話。
その場限りで消えていく薬にも毒にもならん会話でも、オレと和葉にとっては気を抜けない神経を使う場面や。
相手が工藤の今夜は特に。

「どうしたんや?」

話をしながらも段々口数が減ってきとった和葉が、小さな欠伸をして目元を指で押える。

「お腹一杯んなったら、何や眠たなってもうた」
「いつまでたってもお子様やな」
「やって……」
「振袖着て車乗ったりしたから疲れたんだろ」
「そうだね。わたしもちょっと疲れたし、もう休もうか」
「せやけど、せっかく来てくれたのに……」
「また明日があるじゃない」

欠伸を繰り返しとるが、和葉は別に眠いワケやなくて痛みと快楽に飢えとるのを誤魔化そうとしとるだけや。
工藤と姉ちゃんの前やからオレに言われた通りに我慢しとるが、そろそろ限界なんやろう。

「ほな、先に風呂使うてくれ」

和葉の様子を疲れとるからやと素直に受け取った工藤と姉ちゃんに風呂を勧める。
ついでに工藤には『一緒に入ればええやん』てお約束のセリフにエールを込めて投げてやった。
これもお約束やろうが、オレのセリフにニヤリと笑った工藤は姉ちゃんに背中をどつかれて、がっくりと肩を落とした。

「じゃあ、先にお風呂頂いて休ませてもらうね。お休み、和葉ちゃん、服部君」
「お休み、蘭ちゃん」
「ちゃんと休ませてやれや、工藤」
「永眠しねえように祈っててくれ」

リビングを出て行った工藤らの気配が遠くなるのを待って、和葉を引き寄せて耳朶に軽く歯を立てた。

「ええ子やな」
「んっ……もっと……」
「まだアカン」
「せやけどっ…あんっ…」

ソファの上に膝立ちんなって抱きついてくる和葉の腿を撫で上げながらスカートん中に手を滑らせて、指先で足の付け根を辿り和装用の色気のない下着の上から飢えた口を探すように敏感な蕾のあたりを撫でてやる。

「もう濡れとるみたいやな。もしかして、姉ちゃんの事考えとってココ濡らしとるんか?」
「ちゃう!」
「ああ、工藤とヤリたかったんか?車ん中で涙見せてええ感じに誘惑しとったしな。せやけど、アイツは姉ちゃんのやからアカンで?」
「アタシは…んんっ……アタシは平次しか欲しない…」
「どうやろな?今ココでねだっとるんも、風呂上りに顔出すやろう工藤や姉ちゃん誘うためとちゃうんか?」
「ちゃう…アタシ、平次が欲しいんよ……」
「ほんなら、まだ我慢出来るやんな?」

もう一度耳朶に噛み付いてやって、座りなおさせる。
先に姉ちゃんを入らせたんやろう、暫くすると工藤が風呂が空いたと告げにリビングに顔を出した。

「ええ子に出来たな」

工藤が客間に行くのを見送ってから風呂を使って寝室に入ると、和葉はもう我慢できひんとばかりにオレに抱きついて喉を甘噛みしてきた。

「なぁ、もうええやろ?」
「褒美は明日、工藤らが帰ってからやで?」
「わかっとる。せやけど、ちょっとだけでええからオマケちょうだい」

鎖骨に舌を這わせながら、和葉が手探りでオレのバスローブの紐をほどいて前を開き、胸から腹へと両手を滑らせる。
風呂を上がったばかりの熱い手がすぐにオレのモノを探し当てて、カタチを確かめるように柔らかく握り込んできた。

「ほら、平次やってもうこんなんなっとるやん」
「ああ……せやな」

しっとりと吸い付くような掌の感触に、思わず喘ぎともため息ともつかない声が落ちた。

「へいじぃ……」

作り物とは思えへんほど熱く潤んだ義眼が、まるで見えとるみたいにひたりとオレの目を見つめてくる。
いつもこの『眼』だけでイケそうなくらいに、カラダの奥底から官能の大波を引きずり出されるんが常や。

「オマケはくれたる。そしたら、ええ子で眠れるな?」
「うん」
「約束やで」
「んっ……」

和葉の頬を両手で包み込んで、物欲しげに開いた唇を塞ぐ。
絡めてくる舌を甘噛みしながら抱き上げて、ベッドに移動した。

「もう待ちきれんのやろ?挿れたるから、後ろ向いてみ?」

素直にオレに背を向けて両手をついた和葉の腰に腕を回して上げさせると、バスローブを捲り上げて飢えとる下の口に望みのモノを呑み込ませた。

「ああっはっ……んっ…」
「和葉んナカはええな。こうしとるだけで、魂まで蕩けそうんなる」
「あ……焦らさんといて、へいじ……」
「焦らすて?」
「ひゃあんっ!」

挿れたまんま腰は動かさんと、バスローブの合わせから両手を突っ込んで乳房を鷲掴みにして軽く爪を立てる。
そのまま引っ掻くように指を滑らせて、きゅっと乳首を潰した。
打ち上げられた魚みたいに背を反らせた和葉がもどかしげに腰を揺らす。

「へいじっ…あんんっ!おねがっ……おねがい…焦らさんといてっ!」
「焦らしとらんやろ?ほら」
「あああっ!あっ…もっと!おねがい…あっ……もっと!」

片手をハラの下から淡い茂みの奥に進めて、指先で敏感な蕾を挟み込んで捏ね回す。

「もっと!ああんっ!!もっと…んんっ……もっとナカにもっ!」
「ちゃんとええ子で居れよ?」
「やくそくっ……ああんっ!!」
「ええ子や」

喘ぎながら頷く和葉の腰を掴んで思うままに腰を打ち付け、存分に鳴かせる。
一際高い嬌声を上げてイった和葉んナカに、オレも満足した証の熱を放った。



和葉ちゃんが望むなら、平次はどんな自分でも完璧に演じてみせます。
でも、今のままでいいと言われたので、ねだられるままにエロさ復活です(笑)。

 
「 いや、別にベットやなくても風呂とか玄関とかキッチンとか、いっそベランダでもええで? 」


by 月姫
  「色喰夜会」〜鏡幻月華〜top matrial by 妙の宴
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