鏡幻月華 〜 二の夜 〜 |
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クリスマス。 籠の外の世界ではそんな華やかなイベントがきっと盛大に行われとるんやろ。 昔のアタシやったらそれこそ周りの雰囲気に流されて、やれツリーだそれケーキだと大騒ぎして平次を綺麗なイルミネーションが煌く町に引っ張り出してたやろうけど、今のアタシにはどうでもええこと。 今は、平次が居るだけでええ。 「ああぁ……もっと……もっともっとちょうだい…」 「焦るなや」 「いやっもっと……あんっ!」 平次が側に居ったらええ。 なん思うんはほんまやけど、やっぱそれだけや足りひん。 側に居ってくれるならアタシに構ってくれへんとあかん。 「平次…こっちももっと食べて…」 「やったら自分で持ち上げてオレに差し出せや」 アタシは平次の言葉が終わらないうちから縛られたままの両手で自分の胸を持ち上げ、乳首が突き出るように前に押し出した。 「ああああああ……」 一瞬にして体中に痛みが駆け抜ける。 平次が乳首に噛み付いてくれたから。 やけどもっと、もっともっと激しい痛みが欲しくて、思いっきり体を後ろに倒す。 「こらっ!」 それやのにすぐに平次は胸から口を離し、両手でアタシの体を抱き抱えるようにして押さえ付けてしまう。 決してアタシの体に傷が付かないように。 「何しとんねん!!」 「やって…」 「体に傷が付くようなことしたらあかんて、あれほど言うてるやろが!」 「…やっ」 「やってやない!あかんもんはあかんのや!」 さっきまでの優しい平次は掻き消えて、冷たい突き刺さるような声音と雰囲気を纏い始めた。 こんな些細なことでも、平次はアタシの体に傷が付く付くことを異常に嫌がる。 その理由はアタシかて分かってる。 傷はすなわち痛み。痛みはアタシにとって快楽。 つまりアタシが快楽を求めれば求めるほど、自分に付ける傷も大きくなっていく。 やから平次はアタシが傷を作ることを必要以上に諌める。 放っておけばいつかアタシが、死んでしまうんやないかと恐れて。 「かんにん平次。もうせぇへんから!」 今にもアタシから離れて行きそうな平次に、必死で縋って許しを求める。 こんな雰囲気になってしまうと下手したら本当に平次は、アタシをこのままの状態でこの場に置き去りにしかねへん。 そんなんされたら、たまったもんやない。 「お願いやから許して。なっ。ほんまごめんて」 「お前の…」 平次が何か言いかけたときに、なんかお約束のように邪魔な騒音が鳴り始めた。 平次の携帯電話の音や。 「いやや平次!出んといて!」 「うるさい。ちょう黙っとれ」 いつもの平次やったらこんな時、どんなに煩く携帯が鳴り響いてもアタシを優先してくれる。 それが、今の平次はアタシを自分の膝の上に乗せたままで、平次自身をアタシの中に入れたままのこの状態で机の上に投げ出されてたいたであろう携帯へと腕を伸ばそうと片手でアタシを抱きとめ体を捻った。 慌ててその腕を掴んでも、アタシの力では平次を留めることなんできへん。 「ええか。じっとしてるんやで」 「いやや!」 「今度言うこと聞かへんかったら、また座敷に繋ぐで」 「………」 以前、座敷に半日以上放置しさたときのことを思い出して、一瞬動きが止まってしまった。 それを平次は勝手にアタシが納得したと思うたんか、その隙にさっさと携帯を掴み上げピッという電子音をさせる。 「何や工藤か。久しぶりやな」 ………さ、最悪や。 基本的に電話で長話をせぇへん平次やけど、今も昔も工藤くんだけは別や。 事件や推理の話にしろ何にしろ、とにかく1分2分で終わることなん絶対にあらへん。 こんな状態で。 アタシの中にはまだ平次が居るこの状態で。 中途半端に高ぶっている体は持て余す熱をどこにも逃がせなくて、背中がムズムズするような感覚はあそこから蜜を流し出すけれどアタシに快楽を与えてくれることはない。 生殺しや…… こんなん我慢出来へん。 「へぇ……んんっ」 少しでも平次の意識をアタシに向けたくて甘えた声で名前を呼ぼうとしたら、口に指を突っ込まれた。 しかも差し込まれた2本の指はしゃぶれと言わんばかりに舌を撫で、ゆっくりと出たり入ったりを繰り返す。 「んっんんん……ん……んん…」 こんな子供騙しでって思うたけど、今の平次に逆らうたら後が怖いから取り合えず懸命にその差し込まれた指をしゃぶりつくす。 指を1本づつ嘗め回し、口を窄めて唇で擦る。 甘噛みするように軽く歯を立て、唾液を絡ませ、まるで平次自身を食べるかのように。 それやのに、平次はぜんぜん工藤くんとの話しを終わらせようとはせぇへん。 ええ加減焦れたアタシが、無理やりにでも腰を動かそうとした時、 「正月に工藤とねぇちゃんが泊まりに来るらしいで」 と平次が言い放った。 |
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