「 CHESS 」
notation 03
「 bishop 」
和葉たちが平次たちとの昼食場所に選んだのは、広いテラスのある学生に人気のイタリアンレストラン。
食通である新一、オススメのお店でもある。
待ち合わせは、11時。
和葉と蘭は自分達のテンションを上げる為に、朝から録画してあったお笑い番組を観てから家を出た。
昨夜は一晩中語り合っていたので、2人とも今朝は相当酷い顔だったのだ。
それなのに、冷たいシャワーと気合の入ったメイクでテンションもハイな2人はまったくの別人になっていた。
いつもの自分達を演じる為に。

約束の時間より早く着いた2人は、予約していたテーブルできゃっきゃっとおしゃべり。
時間通りに現れた新一に、気付かないほど盛り上がっていた。
「すげぇ楽しそうじゃん。オレもまぜてくんない?」
「新一!びっくりするじゃない。いつ来たの?」
「あっ!工藤くん!」
「い!ま!歩きながら手ぇ振ったのにさ、2人ともまったく気付いてくれねぇんだもんなぁ。」
「ごめ〜ん。話に夢中になってたから。」
蘭は小さく手を合わせて笑った。
「え〜そ〜なん?まったく気ぃ付かへんかったわ。かんにんなぁ工藤くん。」
和葉は小さく首を傾けた。
「いいよ。蘭と和葉ちゃんの間にはいくらオレだって入り込めぇからさ。」
新一はそう答えると、さり気なく蘭の隣に座った。

5人用の丸テーブルには、後、椅子が2つ残っている。

「それより、和葉ちゃん久しぶり。」
「工藤くんも。相変わらず蘭ちゃんとはラブラブなんやて〜?今なその話してたんよ。なっ、蘭ちゃん。」
「ちょっと和葉ちゃん!」
「ええやんか〜、隠さんでも。なぁ?工藤くん?」
「えっ?ああ・・」
新一にしては珍しく返答に迷った。
新一も和葉が平次に振られたことは知っているからだ。

それに、今日、この場に平次が彼女を連れて来ることも。

そんな新一の表情を見て、2人は顔を見合わせて微笑んだ。
「あたしのことやったら、気にせんでな。もう、平次のことなん吹っ切れてるんやから。」
和葉がちゃめっけたっぷりにそう言うと、
「聞いてよ新一!和葉ちゃんたら、もう5人から交際申し込まれたんだって。」
と蘭が話しを受け継ぐ。
「ちょっと蘭ちゃん!人数増えてるやん!」
「いいじゃない。4人も5人も同じよ。和葉ちゃんがモテモテなのは変わらないんだから。」

「だぁ〜れがモテモテやてぇ〜?」

「あっ、服部くん。」
「久しぶりやね。ついでに、モテモテはあたしや。あ・た・し。」
和葉は”へへ〜ん凄いやろ”と胸を張って見せた。
「お前ん大学、目ぇの悪いヤツが多いんとちゃうかぁ?眼鏡人口高いやろ?」
「目ぇが腐ってんのはあんたや!そのガラス玉、取り替えて貰ろた方がええんとちゃう?」

平次の態度は、以前とまったく変わっていない。
だから、和葉もそれに合わせる。

そして平次がいつもの様に和葉の隣に座ろうとしたのを、和葉自身が止めた。
「あんたはそっち。」
新一の隣になる椅子を指差し、
「それに〜、早う紹介しなや。彼女困ってるやん。なぁ?」
と平次の後ろにいる女性に笑いかけた。
「まったく、相変わらず煩いヤツやで。」
平次はそう言って和葉を睨むと、
「ほな、しゃ〜ないから紹介したるわ。俺の彼女でほのかや。いじめんるんやないで和葉。」
と彼女に和葉の隣の席を勧めた。
「始めまして、佐野ほのかです。よろしくね。」

ほのかは、色白で少しネコ目の可愛らしい女性だった。

「こちらこそ、よろしゅうな。あたしは遠山和葉。あの・・」
「あなたが和葉さん?平次からあなたのことは聞いてるわ。元気な幼馴染がいるって。」
ほのかは和葉の言葉を遮って、明るく問い返した。

和葉はほのかが発した”平次”という呼び方に、僅かな衝撃を覚えた。

だが、それを微塵も表には出さないで、
「どうせ碌なこと言うてへんのやろ?な〜んか、聞かんでも分かるわ〜。」
と笑顔でほのかと話し始めた。

蘭はそんな2人をにこにこと笑顔で見ながら、心の中ではまったく違うことを考えていた。
蘭自身はほのかと会うのは2度目。
初めて会った時に、感じた違和感。
その時は何だか分からかったそれに、今、気付いたのだ。

・・・・・・・・・・・和葉ちゃんに似てるんだ・・・・・・・・・・・

そう思って蘭がちらっと新一を見ると、小さく苦笑いを浮かべた。
新一は気付いていたのだ。

平次は気付いていない。

テーブルの下で和葉がぎゅっと蘭の手を握り締めた。

ほのかが和葉に似ている。
これが何を意味するかなんて、新一はもちろん、蘭も気付いている。
そして和葉自身も。
残酷な程に気付いていないのは平次だけ。


和葉はある決意を胸に、表面上は笑顔を絶やさなかった。
蘭もそんな和葉を支える為に、明るい表情を崩したりはしない。


想いは祈りの如く胸に秘めて。





はい。「CHESS」 notation03 「bishop」でした。
どうしてくれよう服部平次。(怒)
ぜってぇ〜に和葉はやらねぇ!!
phantom至上最高にニブイ。ここまで来ると救いようが無い。自分で書いといて言う。(笑)
by phantom


■CHESS用語■
ビショップ(bishop)=チェスの駒の一つ。僧侶を表し、僧侶の被るカラス帽の形をしている。
             斜め線上にある任意のマスに移動できが、他の駒を飛び越えることは出来無い。
             最初に配置されていたマスと同じ色のマスにしか移動出来無い。つまり、全体の半分しか動けない
             のである。
             左右合わせて、全体をカバーすることが出来る。
             ビショップの価値はポーン3個分の相当する(局面によって駒の価値は変動するため絶対では無い)

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