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「 CHESS 」 |
notation 04 |
「 queen 」 |
和葉は平次達と会ってから1週間程して、蘭に密かに決めていた事を打ち明けた。 「そう言うことやねん。」 「それ、いつ決めたの?」 蘭は驚きもせずに、静かに問い返した。 「こっちに来る前に、手続きは全部済ませてたんよ。」 「そう・・なんだ。」 あの、ほのかに出会った日。 みんなと別れた後、和葉は押さえ込んでいた感情が爆発したかの様に蘭の側で泣き崩れた。 泣いて、泣いて、泣いて。 最後には何が悲しいのか分からないくらいに。 なぜ自分では駄目なのか? こんなに似ているのに、なぜ彼女なのか? 自分の何がいけないのか? 本当に選ばれたのは彼女の方なのか? 泣きながら問い掛ける和葉を、蘭はただただ優しく抱きしめ続けた。 答えは出ているのに、言葉にすることが出来無い。 言ってみたことろで、余計に和葉を苦しめると分かっているから。 だから、蘭は和葉と一緒に泣くことにした。 2人で泣けば、涙も早くなくなるだろうと。 そして次に日から、2人は思いっきり遊びまくった。 昼間は遊園地に行ったりショッピングを楽しみ、夜はライブハウスや映画を観たり。 時間を惜しむみたいに、常に2人で行動した。 時には新一が、2人をお洒落なバーへ連れて行ってくれたりもした。 蘭も新一も、何も考えたくないだろう和葉のことを想ってのことだった。 和葉もそんな2人の気持ちが嬉しくて、素直に甘えていたのだ。 そして今日、和葉は東京に来た本当の理由を蘭に告げたのである。 「このままあたしが大阪に居っても、みんなに迷惑掛けるだけやし。」 「おじさんは反対しなかったの?」 「お父ちゃんは何も言わへんかったわ。和葉の好きにしたらええ。そう言うてくれたんよ。」 その言葉に、どれほどの想いが込められていただろうか。 「本当に行っちゃうのね。」 「うん。」 蘭は泣きそうになるのを堪えて、 「いつまで?いつ帰って来るの?」 「交換留学の期間は最長で2年間なんやけど、例外もあるらしいわ。」 「淋しくなっちゃうね。」 「蘭ちゃん・・」 「でも、それが和葉ちゃんには一番良いことなのよね。」 無理にでも笑おうとするが、上手くいかない。 「ありがとな蘭ちゃん。あたし、がんばって来るから。」 その夜、2人は寄り添って一つの布団で眠った。 高校生の時は、同じ幼馴染に恋をして、布団を並べてよく愚痴を言い合いながら眠った。 大学生になって、蘭はその幼馴染が恋人となり、和葉は失恋してしまったけれど2人の関係は変わらない。 いつまでも最高の友達でいたい。 もちろん、2人ともその想いは同じだった。 次の日、和葉は蘭んだけに見送られて東京を後にした。 そして和葉が留学することは、再び、蘭の心に秘めてもらう約束をして。 大阪に着いた和葉を新幹線のホームで待っていたのは、大滝警部だった。 「お帰り、和葉ちゃん。」 「ただいま。大滝さんにまで迷惑かけてしもてかんにんな。」 「そんなん気にせんと、東京は楽しかったん?」 「めっちゃ楽しかったんよ。蘭ちゃんとぎょうさん遊んだんやから。」 「良かったなぁ。ほな、家まで送りますわ。」 「お願いします。」 大滝は和葉の荷物を受け取ると、駐車場に向って歩き始めた。 和葉はすでに、1人で大阪を出歩くのが危険な状態になっていたのだ。 その事に父が気付いた時から、和葉には誰かしらの護衛が付けられていた。 遠山家周辺のパトロールも強化されている。 大滝は和葉を家の中まで、護衛した。 「おやっさんから聞きましたで、明後日には行ってまうんですなぁ。」 「ほんのちょっとの間やけど、その間、おとうちゃんのことよろしくお願いします。」 和葉は深々と頭を下げた。 「そんなんせんといてぇや和葉ちゃん。おやっさんのことやったら、ワシら府警のモンみんなでみますさかい気にせんと、がんばってこなあかんで。」 「おおきに。遠山和葉、せいいっぱいがんばって来ます!」 と笑顔で敬礼して見せた。 大滝も敬礼で、 「ほな、ワシはこれで。きっちり戸締りしてな。」 と和葉がドアのロックを掛ける音を聞き届けてから、遠山家を去って行った。 1人残された和葉は、 「これでええんよ。あたしが居らん方がみんなの為なんよ。」 と自分自身に呟いていた。 和葉が1人で旅立つ先は、遠く離れたヨーロッパのとある国。 そこは、本物の女王が存在するところ。 |