「 CHESS 」 |
notation 06 |
「 king 」 |
和葉が日本から居なくなったことを、東京では蘭しかしらない。 蘭は和葉のとの約束を守る為に、新一にすら気付かれない様に振舞っていた。 新一に隠し事をするのは苦しかったけれど、和葉の気持ちを想うと耐えられたのである。 そして、ほのかに対して明るく接することすらも。 「ちょっと蘭さん聞いて下さいよ〜!」 新一との待ち合わせの場所である東都大学のカフェで、蘭はほのかに呼び止められた。 「どうしたの?何かあった?」 ほのかは蘭の向いに座ると、勢い込んでしゃべり始めた。 「平次のことなんですってば。昨日なんですけどね、一緒に映画を観に行こうって約束して5時にマクドで待ち合わせしたんです。映画の前に何か食べてから行くつもりだったから。それなのに30分過ぎても来ないから平次の携帯に電話したら、「今日は止めや。」って。これってあんまりだと思いませんかぁ〜?!」 ほのかは蘭と同い年なのだが、なぜか蘭に対しては敬語だった。 「そう・・・ね。」 蘭は苦笑を浮かべた。 「しかも〜、その後携帯の電源切っちゃったんですよ。だって、何回掛け直しても繋がらなかったんだから。酷いでしょう!」 「事件の捜査でもしてたんじゃないかしら?」 「だったら、そう言ってくれればいいのに。」 「新一もそうなんだけど、きっと服部くんも推理に夢中になっちゃうと他のことが考えられなくなちゃうのよ。」 ・・・・・・・・・・・和葉ちゃんならこんなコトは当たり前だもんね・・・・・・・・・・・ 蘭は改めて、自分たちには当たり前の彼らの行動が普通の女の子には理解出来無いのだと気付いた。 ドタキャンに待ちぼうけは当たり前、酷い時などは完全に約束を忘れさられることすらある。 探偵である彼らには、何より事件解決が最優先なのだから。 「でも〜、だったら事件が終わった後にでもメールくらいくれてもいいと思いますけど〜。」 ほのかは納得がいなかいみたいだ。 「事後処理とかいろいろあって遅くなったちゃったんじゃない?ほら、警察の調書とかにも付き合わないといけないでしょ。」 「だからって、メールくらいする時間はあるはずですよね。」 怒った様に言うほのかに、 「そう・・・かな。」 蘭は返答に困ってしまった。 平次がその時、完全にほのかのことを忘れていただろうことは、蘭にでも簡単に想像がつくことだから。 ・・・・・・・・・・・和葉ちゃんならこれも当たり前のコトなのにね・・・・・・・・・・・ 蘭は心の中で、無意識にほのかと和葉を比べてしまっていることに気付いて、小さく首を振った。 「どうかしました?」 ほのかの問いかけに、 「ううん。何でもないの。それより、今日はもう服部くんとは会ったの?」 気持ちを持ち直して話題を変えた。 「ここで平次の講義が終わるの待ってるんです。蘭さんも工藤くんを待ってるんでしょ?」 「ええ。今日はお昼で終わりだから、2人で知り合いの個展を見に行くことになってるのよ。ほのかさんたちは?」 「私は平次を捕まえて、昨日のお詫びをしてもらおうと思って。」 ほのかは東都大学の学生ではない為に、平次の教室がどこだか分からないのである。 だから、この校門近くのカフェで平次を待ち伏せしていたのだ。 「約束してないの?」 「だって〜、携帯未だに繋がらないんです〜。」 「だったら新一にメールして服部くんも一緒にここに連れて来てもらうね。どうせ同じ講義受けてるんだから。」 蘭は笑顔で自分の携帯を取り出した。 「本当ですか?嬉しい!お願いします!」 「まかせて。」 ”指令”という件名のメールを蘭はすぐに新一に送った。 それからも蘭は新一たちが来るまで、ほのかの愚痴に付き合ったのだった。 20分程経ったころ蘭の指令通り、新一が平次を連れてやって来た。 「お待たせ、蘭。それからほのかちゃん、ご所望のコイツ連れて来たぜ。」 新一は平次をほのかの横の椅子に無理矢理座らせてから、自分は蘭の隣に座った。 「何やねん、ほのか?用があるんやたら、俺に直に言えばええやんけ。わざわざねぇちゃんに頼まんでも。」 平次は寝不足の為かご機嫌斜めである。 「服部くん携帯は?」 蘭はそんな平次に、ほのかより先に声を掛けた。 「それやったら、ここに・・・・・・・・あっ!電源切ったままやったわ。」 「そういうことなの。それに、私が勝手に新一に頼んだんだから。ほのかちゃんのせいじゃないからね。」 少しキツメに言い切った。 「すまん。すまん。つい、うっかり忘れとった。」 平次は携帯を開いて電源を入れる。 その携帯電話に付いているモノを見て、蘭の表情は僅かに曇った。 ・・・・・・・・・・・服部くん・・・・・まだ付けてるんだ・・・・・・・・・・・ それは和葉が平次に渡した青いお守り。 きっと何も考えずに付けたままにされているのだろう。 だが、ほのかはそれを見て、 「平次!なんでまだそんなの付けてるのよ〜!私とお揃いのストラップあげたのはどうしたの〜!」 と平次の携帯に手を伸ばしてお守りに触れ様とした。 が平次は、 「触んな!」 と携帯をとっさにほのかから遠ざけたのだ。 「えっ?」 ほのかはびっくりして、手を伸ばしたまま止まってしまった。 「あっ、いや、すまん。」 平次自身も自分の行動に驚いているみたいだ。 「お・・俺はこれでええねん。こんなん何でも同じやしな。それにお前に貰たんは、部屋のカギに付けてしもたしな。」 とポケットから鍵を取り出した。 そんな平次を静かな眼で見詰めながら、蘭は心の中で問い掛けていた。 ・・・・・・・・・・・ねぇ、気付いてる? 和葉ちゃんがずっと服部くんだけを大切に守ってたこと・・・・・・・・・・・・ 自分が守っているつもりで、本当は誰よりも護られていたことに。 |