「 CROW - glance around- 」 9 |
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■ 元彼って何やねん! ■ A (その4〜6) | ||||
「明日、ゆっくり会おうな!」 裕希のその言葉は本当だった。 ただし、場所は大阪府警の会議室。 『と言うことなので、服部警部と久保警部補よろしく頼む。』 服部警部とは和葉のことで、久保警部補とは華月のこと。 華月は暇に任せて昇進試験を受けていたので、なんと警部補まで階級が上がっていたのだ。 しかし一方和葉はと言うと、平次に邪魔ばかりされて一行に試験を受けられなかったのだ。 ちなみに、平次と冬樹は警視正。 なんと、和葉&華月コンビの初仕事は北川裕希の護衛に決定してしまった。 「「 はい。 」」 2人は良い返事をして、捜査課課長が退室するのを見送った。 「ほな。これから、よろしくな和葉。そして華月ちゃんも。」 裕希は笑顔で和葉に手を差し出した。 和葉はその手を暫らく眺めてから、 「裕希・・・・・この脅迫状は本物なん?」 とペシッと叩いたのである。 「ツレナイなぁ和葉。そうやって言うてるやないかぁ。やから、こうやってわざわざ警察に助け求めに来たんやんか。」 たいして痛くも無い手をひらひらさせながら、そう宣もうた。 なんでこうなったかと言うと、北川裕希の元に一通の脅迫状が届いたからである。 北川裕希は大阪に本社を持つ大手出版社”いつひ出版”の重役で次期後継者。 今までは、世界各国を回り良い作品の版権を買うのが主な仕事だったが、ここで社長に就任することとなり日本に呼び戻されたのだ。 そしてすぐに、例の脅迫状が送られて来たのである。 『 お前にこの会社は渡さない。就任式までに辞めないと、後悔することになるぞ。 』 内容的にも、とても分かり易い脅迫状である。 別にこれくらいなら、わざわざ大阪府警まで来るこは無いのだが、近くの警察署でもいいのだが。 なんと、”いつひ出版”から1番近い警察が、ここ、大阪府警だったのだ。 なんせ・・・・・・この会議室の窓から、”いつひ出版”本社は見えている。本当にすぐそこなのだ。歩いて3分。 しかも、捜査課の和葉と華月を指名までしてきたのである。 それでも大阪経済界の大物である現いつひ出版社長の裕希の父からの頼みでは、大阪府警本部が断れないのも無理はなかった。 「仕事やから仕方ないけど・・・。」 和葉は大きな溜息付いて、裕希を見た。 「ほんまに、お芝居やからね。」 「分かってるて。ほな、今から和葉はオレのフィアンセやな。」 その笑顔は本当に分かっているのか不安だ。 「そんで、うちが北川さんの秘書な。」 華月はどこか楽しそうだ。・・・・・と和葉が思ったのは正解。実際、華月はウキウキしていた。 就任式までの1ヶ月間、昼間は華月が秘書として裕希に同行し、夜は和葉がフィアンセとしてあっちこっちのパーティーに同伴するのだ。 その2人をフォローするのは、後輩刑事達。 彼らは、古参の刑事たちから任務とは違う特命も言い付かっていた。 絶対に裕希と和葉または華月を2人っきりにするなと。 どちらかというと彼らには、こっちの方が優先だった。 2人のこの任務は、大阪府警本部捜査課でもトップシークレットととして、扱われることになった。 何がトップシークレットかって? それはもちろん、平次と冬樹にばれない為に決まっている。 冬樹はまだだが、平次は何かにつけては電話をしてきて、和葉の様子をチェックしてくるからだ。 しかも和葉のことに対しては妙に敏感な平次と、華月が関わるとどうも人格が変わる冬樹のコンビを欺く為に注意事項を書いた用紙が皆に配布されるくらいに、これは捜査課全員に課せられた重大任務なのである。 それから1週間くらいは、和葉も華月も自分の任務(フィアンセと秘書)になれるのに必死で、特に問題も無く過ぎた。 華月の秘書姿はちょっと目を引くほど様になっている。 長い黒髪を後ろで纏め、今はやりの眼鏡にシックなスーツ。スカートが短めなのは華月の趣味。 いかにも美人秘書。インテリのお姉さま状態。 さらに、実際の秘書以上にテキパキと仕事をこなしていた。 一方和葉は、パーテーの度に裕希が用意したドレスに身を包んでいた。 これまたその全てが和葉に良く似合っていた。流石、元彼。 セクシーな物から、可愛らしい物まで、和葉の魅力を最大限に発揮にさせるようなモノばかり。 どこの会場でも、和葉は注目の的だった。 これら2人の写メは密かに、大阪府警の中に出回っていた。 その間、もちろん平次と冬樹からは何度か連絡があったが、捜査課の人たちもなんとかやり過ごしていた。すべて我が身の為に。 和葉と華月も流石に自分の旦那の性格をよ〜く理解しているのか、彼らに今の任務をばらしたりはしていないようだ。 だが華月は時々密かに誰かと連絡を取っているようだった。 和葉もそれに気付いてはいるが、あえて黙認している様子。 が2週間目に入ってすぐに問題が発生。 ”いつひ出版”が協賛している映画のプレミアが大々的に行われることとなり、それに裕希が和葉と華月を伴って出席すると言い出したからだ。 このプレミアは映画の宣伝も兼ねていて、TVで全国中継されることにもなっている。 慌てたのは捜査課の面々。 万が一、平次や冬樹の目や耳に触れたら・・・・。 特に綺麗に着飾った和葉をエスコートする裕希を平次が見たら・・・・・さらに和葉の腰にさりげなく手など添えていたりしたら・・・・・・。 あの男ならやりそうだ。 もしかしたら、またわざとキスなどしてみせるかもしれない・・・・・・。 そんな姿が平次の目に入ったら・・・・・・・・・・・・・・・。 強面の刑事たちが犯罪者の方々が見たら驚くような、情け無い青い顔して額をつき合わせていた。 「平ちゃんは今、何してるんや?」 「服部警視正は現在、港署管内で起きている連続殺人事件の捜査を担当されているそうです。」 「久保の方はどうや?」 「久保警視正は、湾岸署管内の拳銃密輸事件を担当されているみたいです。」 「それやったらTVなんぞ見とる場合やないな。」 「そんなんわからへんでぇ〜。いつどこで見てまうかしれへんやろ。」 「やったらどないすんのや?和葉ちゃんらに特殊メイクでもさせるか?」 「そんなんしたかて、あの2人やったら見抜いてしまうんちゃうか?」 どうも意見は堂々巡りのようである。 結局、手の空いている者全員で、少しでもTVに映らないよう邪魔をすることになった。 がプレミア当日、彼らはさらに慌てることとなってしまった。 なんと、その映画は結婚がテーマらしく、出席者も全員カップルでしかも新郎新婦の様な格好をしての参加だったからだ。 もちろん和葉は裕希と、華月はなんと裕希の弟と。 しかもこの青年、華月に一目惚れらしく本当にプロポーズしそうな勢いだ。 「和葉〜〜。めちゃめちゃ綺麗やで。」 「そう言う華月も、ごっつう似おうてるやんそのドレス。」 「和葉のもうちのも本物のウエディングドレスなんやて。」 「そうなん?やったら、これももしかせんでも本物?」 和葉の頭に乗っているのはダイヤモンドのティアラ。 「そうなんちゃうん。うちのこれも本物なんやて。」 華月が付けているのは、豪華なルビーのチョーカー。 2人は任務も忘れてキャイキャイと携帯で写真を撮ったりしている。 「和葉、そろそろ行こか。」 「華月さん、どうぞ。」 和葉は裕希の腕にそっと手を添えた。 華月は青年の腕に自分の腕を絡めた。 これから、レッドカーペットの上を歩く為に。 |
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