「 CROW - glance around- 」 9 |
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■ 元彼って何やねん! ■ B (その7〜9) | ||||
「ふぅ〜〜〜。今回は何や疲れた・・・・・・。」 平次は警視庁のラウンジでソファーにドカッと座り込んだ。 「珍しいじゃん。服部がそんなこと言うなんてさ。」 そんな平次の向かいにコーヒーを2個持って座ったのは冬樹。 奇しくも2人同時に抱えていた事件を終わらせ、本日、ここに戻って来たのだった。 「俺はお前と違うて、人にやらせるより自分が動く方がええわ。」 今度の事件において平次は初めて管理官として、警視庁のチームを連れて所轄署に赴き捜査全体の指揮をとったのである。 「それにしては早期解決だったらしいじゃん。」 「あたりまえじゃ。ちんたらやっとたら犯人逃がしてまうやんけ。」 「それで管理官自ら現場に出張ったんだ。」 「うっさいで冬樹。お前かて、最後の大捕り物には行ったんやろが。」 「当然。一網打尽にするには現場での指揮が1番だからね。」 冬樹は大所帯を束ねる術を心得ているのか、管理官としてチームを率いることが平次よりも多い。 すでに今回で3度めだった。 この2人こう見えて、警視庁でも出世頭なのだ。 「それより服部、和葉ちゃん最近どんな事件担当してるか聞いてるか?」 平次はソファーの背に預けていた頭を上げて怪訝に冬樹を見返した。 「はぁ?何やいきなり?」 「ほら、華月が大阪戻って和葉ちゃんとペア組んだのは知ってるんだろ。」 「ああ。そうらしいな。」 「華月の話だと誰かの護衛らしいんだけどさぁ。府警にいつ電話してもいないんだよ。」 「そう言えば、和葉んヤツもおらへんで。どっかのお偉いさんに脅迫状が来て、そん為についとる言うとったなぁ。」 「そのお偉いさん誰か聞いてるか?」 「知らん。どっかのじじいちゃうか。」 「そうかなぁ?なんだか華月が凄く楽しそうなんだよなぁ。」 するどい! 流石は冬樹、華月の性格を良く分かってらっしゃる。 「和葉は別にそんな風やなかったで。」 「そっか・・・・。」 冬樹のどこか不安そうな様子に平次が、 「お前ほんま変わったなぁ。前は女なんとっかえひっかえやったのになぁ。」 とチャチャを入れた。 「服部にだけは言われたくないね。硬派かと思いきや、和葉ちゃん以外が女に見えて無いだけだった野郎に。」 「それのどこがあかんのや。女なん一人で十分じゃ。」 「そうだよなぁ。その一人すら持て余してるもんなぁ服部は。」 「お前かて、木更津に頭があがらへんやんけ。」 「華月はあれで以外と照れ屋なんだよ。」 「そうは見えんで。」 まぁ確かに。 「華月はオレだけを愛してくれてるからいいんだ!」 「和葉かて俺しか見えてへんわ!」 再度言っておきます。これでもこの2人は、警視庁のエリートなのです。 そんな2人を遠巻きに羨望と憧れの眼差しで見つめている女性陣がいるのは、大阪でもここでもどこでも同じ。 既婚者だと知っても、遊びでもいいから相手をして欲しいという輩まで出てくる始末。 ただし、本人達の視界にまったく入っていないだけ。 『・・・・・・・では、大阪から中継です・・・・・・・・・。』 女性達の声はまったく耳に入らないくせに、”大阪”と言う言葉に必要以上に反応してしまう平次と冬樹。 その声は、このラウンジに複数設置されているTVの一つから発せられていた。 2人同時になにげなくそのモニターに目をやって、 2人同時に目を見開いて身も乗り出す。 『ぞくぞくと出演者や関係者の方々が会場入りしております。今、私の前を通っておりますのは、今回映画のスポンサーである”いつひ出版”社長とそのフィアンセの方です。その後ろには、社長の弟さんと恋人の女性だと思われます。どちらの女性も、スター顔負けの美しさです。いや、羨ましい・・・。』 「「 ・・・・・・・・・・。 」」 しかも、着ているのがウエディングドレスに見えるのは気のせいか?と2人同時に思っているようだ。 「・・・・・・・誰が誰のフィアンセやて・・・・・・。」 「・・・・・・・恋人・・・・華月が恋人・・・・・・・・・・・。」 「 どがんなってんねん!!!! 」 「 華月はオレのだ〜〜〜!!! 」 画面にも映っていた黒服のSPみたいなのは大阪府警の方々。 なるべく2人がTVに映らない様にガードをしていたのだけれど、バッチリ放送されてしまい、しかもご丁寧にコメントまで入れられてしまった。 余りにカメラの数が多くてガードしきれなかったのだろう。 また、和葉と華月のどうしようもなく人目を引き寄せるコンビでは、所詮無理な話だったのかもしれない。 しっかりと、しかもLIVE放送で見つかってしまったではないか。ご愁傷様。 2人はすぐに携帯を取り出して、どこかに掛け始めた。 一方、大阪府警本部刑事課では、残っている者すべてがビクビクしていた。 彼らも作戦の失敗をTVを観て、自覚させられたからだ。 電話が鳴る度に全員が、ディスプレイを確認している。 「うわっ!!!来たっ!!!」 とうとう恐れていたことが現実になったのである。 「どっちや?!!」 「服部先輩です!」 「あっ、こっちにも!久保警視正の携帯番号が表示されてます!!」 フロアー全体に電話のコール音だけが鳴り響いている。 「まじかいな〜〜〜。どないすんのや〜〜〜〜。」 バレルとは思っていたが、二人同時にしかもLIVEで見つかるとは想像していなかったようだ。 いつまでも鳴り止まない電話に、古参の刑事が意を決して手を伸ばした。 それを見て、若い刑事も崖から飛び降りるつもりで受話器を持ち上げる。 『 これはど〜〜いう〜〜〜ことなんや!!!! 』 「へっ・・・平ちゃん。なっ・・・・なんのことかのぉ・・・・・・。」 『 TV観たっちゅうねん!!!! 』 「かっ和葉ちゃんはTV写りもええなぁ〜なっなぁ平ちゃん・・・・・。」 受話器から意味も無く灼熱の殺気が送られて来るように感じているのは、この気の毒な刑事さんだけではないはずだ。 『 お前らこのこと知ってたのか〜〜〜〜!!!!! 』 「めっ・・・滅相もございません。ぼっぼっ・・・僕ら何も知らされてません・・・・。」 『 だったら誰が華月にあんなことやらせたんだ!!!! 』 「知りません!ぼっ僕で無いとこは確かです!はいっ!」 新米刑事くんの体が白く凍り初めているのは、電話機から溢れ出る絶対零度の殺気のせいだとその場の全員が確信していた。 地雷を踏んだ気の毒な大阪府警の面々は、来襲に備えるべく準備を始めたのだった。 |
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