「 CROW - glance around- 」 9 |
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■ 元彼って何やねん! ■ D (その13〜15) | ||||
「警視庁のヘリから着陸要請が来たそうです!」 若い刑事の声が響き渡った。 「はっ・・・早。流石は平ちゃんら・・・・・。」 その場にいた全員の顔が僅かに引きつる。 先ほどの電話からまだ2時間とたってはいないのだ。 「お前ら準備はええか?」 「はい。卓上、マットの下、全て片付けました。」 「現在本部内にあるすべての携帯の待ち受け画面は、変更済みです。」 「刑事課フロアー全机からブツは全て排除しました。」 皆が何をしていたかと言うと、今回の任務において出回ってしまった和葉&華月の写真の回収だったのだ。 平次と冬樹が居ないことを良いことに、堂々と机に飾る者や携帯の待ち受けにする者が続出したのは言うまでも無い。 しかも普段の姿では無い、万が一にも2人に見つかる訳にはいかないのだ。 夕闇が迫る中、大阪府警にヘリの轟音が。 フロアー全体に何とも言えない緊張が走る。 普段なら雑音が耐えない場所に、靴音だけが木霊する。 さながら、ジョーズのテーマソングが聞こえて来そうだ。 「 どういうことか、詳しゅう聞かせてもらおか。 」 平次の声と同時に2人は刑事課に現れた。 ジョーズが出現したのである。しかも、2匹同時に。 「えらい早かったなぁ平ちゃん。まぁ、突っ立ってへんと、こっちに座りや。」 古参の刑事の手前、平次も一応大人しく従う。 だが冬樹は、華月の机に向った。 「久保も。とにかく、こっち来いて。」 一応、和葉や華月の周辺もチェックはしているのだが、気が気ではない様だ。 なんとか2人を来客用のソファーに座らせて、これまでの経緯を説明した。 「そんで、犯人の目処はもう付いてるんやろな。」 平次の目は、犯罪者を追い詰める時のものだ。 冬樹も当然だろうという顔をしている。 「あっ・・・・・いやぁ・・・・・・・どうなんや?」 「はっ!そっ・・・・それが・・・・・。まだ・・・・・・。」 担当である和葉&華月がまだ、報告していないのだから仕方ない。 「はぁ?!!何やってんねん!!そんなんさっさと捕まえんかいっ!!」 平次は新米の刑事を睨み付けた。 可哀想な新米刑事くんは、”すみません”を連発するのが精一杯のようだ。 「ところで、今日のあのTVは・・。」 冬樹が言いかけた時に、 『 修ちゃん!華月ちゃんから電話やで〜〜!!早、出て〜〜なぁ〜〜!! 』 どこからともなく華月の声が・・・・・。 『 淳く〜〜ん!和葉ちゃんから電話や!ほらほら、早出て! 』 どこからともなく和葉の声が・・・・・。 「「あわわわわ・・・・・・。」」 遥か彼方から、平次達の様子を遠巻きに見ていた若い刑事達が慌てて自分の携帯を取り出している。 これは、ちょっと前に冗談で和葉と華月が自分専用の着信音として吹き込んだモノなのだ。 彼らは画像ばかりに気を取られていて、こっちをすっかり忘れてしまっていたのだった。 当然、彼らの携帯は彼らが出るより先に、冬樹と平次に取り上げられてしまった。 『 修ちゃん?』 「修ちゃんて誰なんだ華月?」 冬樹は目はナイフの様に携帯の持ち主をギロリ。 『 あれ?その声は冬樹なん? 』 「オレだと何か都合が悪いのか?」 『 淳くん?これからのことなんやけど・・・・・淳くん?聞いてんの? 』 「おお。ちゃ〜〜んと聞いてんで。」 平次は淳くんと和葉が親しく呼んでいる若者の肩に手を置いて答えた。 『 へっ?もしかして平次? 』 「もしかせんでも俺や。」 気の毒な若い刑事2人は、直立不動で真っ青だ。 一介の刑事からしてみたら警視正など雲の上の人間だ。 しかも、今は私情も混ざってさらに怖いだろう。 『 別に悪くわないけど、ちょっと修ちゃんに代わってくれへん? 』 「オレがちゃんと伝えてやるから、言ってみろよ。」 『 あかんよ。捜査のことなんやで。冬樹は部外者やんか。 』 『 平次・・・・あんたそんなとこで何やってんの? 』 「お前こそ何やってんねん!!」 『 捜査やってさっきから言うてるやん。それより、早、淳くんに代わってや。 』 携帯から漏れる声に、修ちゃんと淳くんは、”僕らのことなど気にしないで欲しい”と心底思っていた。 「だったら、今からこの捜査の指揮はオレが執る!」 「聞こえたか和葉?そういうことや。これからは俺らに従えや。」 『『 ・・・・・・・・・・。 』』 「聞いてるのか華月!」 『 アホちゃう?こんな捜査に管理官がいるかいな! 』 『 ほんまや。何言うてんの平次? 』 「つべこべ言わずに従えや!上司命令や!」 『 今更そんなん言われたかて邪魔なだけやで。 』 『 華月の言う通りや。 』 天下の警視正、しかも警視庁の管理官に向ってこんなコトを言い切れるのはこの2人を置いて他には絶対いない。 この会話が聞こえている可哀想な若い刑事達は、もうこの場から逃げ出したい気持ちだった。 ”僕らをこれ以上巻き込まないで欲しい”と。 それから暫らくは、平次は和葉と冬樹は華月ではなく、4人で言い争っていた。 会話の相手が通話相手ではなかったりと、めちゃくちゃな状態だったのだ。 『 あっ。和葉。お迎えや。ほな、冬樹うちらこれからいつひ出版のパーティーに出席するから。』 『 もう、平次らのせいで時間無くなってしもたやん。そん会場で、ホシを確保するから課長にそう言うとってな。』 2台同時に通話は切られてしまった。 平次と冬樹の額は、ピクピクと引き攣っている。 「パーティー会場はどこだ?」 「ぐっ・・グランス新大阪ホテルであります!」 「すぐ行くで。」 そう言うと平次と冬樹は、彼らの携帯を持ったままさっさと歩きだしてしまった。 その後を慌てて追いかける刑事課の面々。 現本部長や捜査課長などにも、急いで連絡を入れている。 現場に警視庁の管理官が2人も出向くなど、大阪府警始まって以来だったからだ。 はてさて、これから始まるのは捕り物なのか痴話喧嘩なのか・・・・・・大阪府警の方々の心労はまだまだ続くのであった。 |
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